前回の教えは「お金の使い方がむつかしい」だった。
では、何に使えばいいのだろうか?
参考になるユダヤのお話がある。
ウィズダム(*)を売る老婆のお話
* 「ウィズダム」とは知恵や分別、賢明さをいう
ある村に貧しく若い夫婦が住んでいた。
あんまり貧しいので、男は出稼ぎに行った。
男は八年間働き、袋いっぱいの金貨を持って妻の元に帰ることにした。
帰路を急ぎながら、いよいよ明日は妻に会える日。
ふとお妻にお土産を買おうと思いついた。
予算は金貨1枚。
だが市場に気に入ったものがない。
諦めて帰りかけた時、片隅に老婆が何かを売っていた。
男; 何を売っているんですか?
老婆; ウィズダムを売っているんですよ。
男; そのウィズダムを売ってください。
老婆; それではその袋に入った金貨を全部支払ってくだされ。
男はあまりに高いので驚いたが、ウィズダムにはその価値があるものと思い、金貨を全部渡した。
老婆; では教えよう。
第一に、同じ目的地に行く道が二つあったら、決して近道をしてはいけない。
時間がかかっても安全な大きな道を行きなさい。
第二に、怒りがこみ上げてきても、その場で爆発させてはいけない。
一晩お待ちなさい。
翌朝の考えがあなたを正しい道に導くでしょう。
男は意味を考えながら、帰りかけた。
しかしふと我に返り、「袋いっぱいの金貨の価値があるのか」と不安になった。
元の場所に駆け戻ったが、そこに老婆の姿はなかった。
代わりに老婆が肩にかけていたショールが置いてあり、その下には先ほど支払った金貨が残っていた。
男は不思議に思ったが、金貨を取り戻した。
翌朝、馬車に乗り、男は家路を急いだ。
山道に差し掛かると、道が二本に分かれていた。一つは山を迂回していく普通の道、一つは山を越えていく険しい道。
険しい方が近道だったが、ウィズダムを思い出し、普通の道をいくよう御者に指示した。
故郷の村に着いて聞いてみると、山道でがけ崩れがあり、ほとんどの馬車が谷底に転落したということだった。
男の到着は深夜だった。
妻はもう寝ていると思い、近くの宿で一泊することにした。
宿に入ると、なんと妻が宿の給仕をしていて、夫を見てもそ知らぬ顔だった。
男は無性に腹が立った。
「八年間も働き帰ってきたというのに、そ知らぬ顔とはどういう事だ!きっと他に男ができたに違いない!」
そう決めつけて大声で妻を怒鳴ろうとした。
その時また老婆のウィズダムを思い出し、爆発をなんとか思いとどまった。
翌朝、家に帰ってドアを開けると、妻が飛びついてきた。
「ああ、やっぱりあなただったのね。よく似た人を見たけど立派な服装をしてたので、他人かもしれないと思って声をかけられなかったのよ。」
男は「いや、俺こそ声をかけなくて悪かった!」
二人は抱き合って再会を喜んだ。
その後、仲良く幸せに暮らしたとさ♫
ユダヤの教え
ウィズダムにはお金を払う
男はウィズダムを手に入れるため、いったん全財産をはたいた。
もし老婆に払ったのが金貨1枚だったら、近道をあきらめただろうか。
また妻を見た夜、怒りを抑えられただろうか。
両方とも難しかっただろう。
なぜならウィズダムの価値を少なく見積もったからだ。
全財産の価値があると信じたから、辛くてもウィズダムを守ったのだ。
ユダヤでは痛みを感じ、犠牲を払うことで、初めてウィズダムを獲得すると言われる。
単にお金を渡したのでは身につかない、大事なウィズダム。
お金持ちの親が、一緒に居られない罪悪感から多額のお小遣いを子供に与えたとする。
残念だが、子供にウィズダムは身につかないだろう。
お金の使い方は本当にむつかしい!
<参考>
・ラビ・マービン・トケイヤー編著 「ユダヤ5000年の教え」
・石角 完爾著 「ユダヤ人の成功哲学 タルムード」